薬を使わないAGA治療のアプローチとして注目されているのが、「低出力レーザー治療（LLLT: Low Level Laser Therapy）」です。これは、特定の波長の低出力のレーザー光線やLED（発光ダイオード）の光を頭皮に照射することで、毛母細胞の活性化や頭皮の血行促進を図り、発毛を促す治療法です。高出力レーザーのように熱で組織を破壊するのではなく、細胞レベルでの生化学的な反応（光生体刺激作用）を利用するのが特徴です。低出力レーザーの光エネルギーが、毛根にある細胞内のミトコンドリアに吸収されると、細胞のエネルギー産生（ATP産生）が活性化されると考えられています。これにより、毛母細胞の分裂が促進されたり、休止期から成長期への移行がスムーズになったり、あるいは細胞の老化を防いだりといった効果が期待されます。また、血管拡張作用による血行促進効果や、抗炎症作用なども報告されており、これらが複合的に作用して頭皮環境を改善し、発毛をサポートすると考えられています。低出力レーザー治療の大きなメリットは、薬剤を使用しないため、「副作用のリスクが極めて低い」ことです。痛みや熱さを感じることもほとんどなく、安全性が高い治療法とされています。また、自宅で使えるヘルメット型やキャップ型のデバイスも開発・販売されており、クリニックに通わずに手軽に治療を継続できる点も魅力です。FDA（アメリカ食品医薬品局）で、AGAに対する有効性と安全性が承認されている機器も存在します。効果については、内服薬や外用薬のような劇的な変化というよりは、比較的マイルドで、抜け毛の減少や髪のハリ・コシ改善、軽度の発毛促進といった効果が報告されています。そのため、単独での治療というよりは、内服薬や外用薬などの基本的なAGA治療と「併用」することで、相乗効果を高める目的で用いられることが多いです。効果を実感するまでには、他の治療法と同様に、数ヶ月以上の継続的な使用が必要となります。費用は、クリニックでの施術か、自宅用デバイスの購入かによって異なりますが、デバイスは初期費用がかかるものの、ランニングコストは比較的低いと言えます。薬に抵抗がある方や、既存の治療にプラスアルファの効果を求めたい方にとって、検討に値する治療法の一つでしょう。