薄毛の原因と聞いてまず思い浮かべるのは遺伝やホルモンバランス、あるいはストレスといった要素ではないでしょうか。しかし、灯台下暗しと言うべきか、意外にも多くの人が見落としている重大な原因の一つに「鉄分不足」があります。鉄分は血液中のヘモグロビンの構成要素として、全身の細胞に酸素を運搬するという生命維持に不可欠な役割を担っていますが、この酸素の供給が滞ると、私たちの体は真っ先に生命維持に関わりの薄い組織への供給をカットします。その筆頭が「髪の毛」なのです。毛根にある毛母細胞は、体の中で最も活発に分裂を繰り返す細胞の一つであり、その活動には大量の酸素と栄養が必要です。しかし、鉄分不足によって酸欠状態に陥ると、毛母細胞は活動を停止し、ヘアサイクルが乱れ、髪が細くなったり抜け落ちたりしてしまうのです。特に女性の場合、毎月の月経によって定期的に鉄分を失うため、潜在的な鉄分不足(隠れ貧血)に陥っているケースが非常に多く、これが原因不明の薄毛や「びまん性脱毛症」を引き起こしていることが少なくありません。また、鉄分は髪の毛の主成分であるケラチンの合成にも関与しているとも言われており、不足すると髪の質自体が悪化し、パサつきや切れ毛の原因にもなります。健康診断で「貧血気味」と言われたことがある人はもちろん、数値が正常範囲内であっても、貯蔵鉄(フェリチン)の値が低い場合は髪に影響が出ている可能性があります。薄毛対策として高価なシャンプーや育毛剤を試す前に、まずは自分の血液の状態に目を向け、体の中から髪を育てる土壌が整っているかを確認することが、遠回りのようでいて実は最も確実な第一歩となるのです。